埼玉鋁合金精密鍛造(丹陽)有限公司 柴崎 昇 総経理に聞く

こちらでの生活はいかがでしょうか?

(テーブルの和菓子を指して)日本のお菓子は上品な味ですよね。食べるものは、私は年齢的にどうしても日本食になります。毎日中華はきついなぁ。それもあって常州にいます。日本料理店も20数軒ありますし。ここから車で40分です。馴染もうと無理してではなく、食べるものぐらいは食べ慣れたものにしたいですね。

15~16年前、タイに5年ほどいました。一番大事なのは健康ですね。それが保てないのなら無理してはいけない。(海外駐在は)すべての面であまり無理をしないことですね。

御社の進出のきっかけは?

うちは自動車用アルミサスペンション中心なんですが、日本ではサスペンションの需要自体、横ばいもしくは減っています。その対応をどうするのか?シェア争いに負けたわけではなくて、日本で減っていく分を中国でカバーしようと思ったわけです。中国のほうが量も多いんです。

中国での生産を進めないとしたら、中国の日系メーカーとの開発に乗らないとしたら、需要も減り、シェアも下がります。ライバル社がこちらにありますしね。中国も商圏ということで決心しました。

中国のBMW、VOLVOなど、日系よりも海外メーカーのほうがアルミのサスペンションを使うんですよ。高級車に。安いサスペンションは鉄ですが、アルミのサスペンションは足回りが軽く操縦性がいいんです。欧米の車、特にドイツ車はアルミの比率が全然高いんです。普通の車でも使われています。

日系メーカーの仕事の関係がきっかけですが、(その取引だけでは)企業としては厳しいので、中国で独自に仕事を拡大するという覚悟で出てきました。

アルミのサスペンションに対する需要についてもう少しおしえていただけますか?

中国の2016年の自動車販売台数は2800万台です。そのうちアルミのサスペンションに対する重要はどれぐらいあるかと言いますと、需要はものすごいんです。3000万台のうち、高級車の割合は2~3割です。1台につき約4本使用しますから、3600万本必要なわけです。うちが1割を取っても360万本になります。

機械(プレス)に投資して、1ラインで100万本です。(現在2ラインですから)4000万本のうちの5%です。ですから、うちはもう1台機械を入れたいんですがね。まだまだ市場は伸びます。市場動向としてあるんです。

競合する企業が続々ということはないのでしょうか

うちのような仕事は、中国のローカル(企業)は無理です。ドイツから来た同じような会社はあります。中国は3000万本は輸入です。ですから、中国で造ればもっと広がるわけです。

うちのような仕事は、最初に試作を造って量産になるまで2~3年かかります。しかも、ラインの何パーセントを動かすかという稼働率ですが、ラインが埋まるまでは5年かかります。それに対して設備投資するのは経営的に厳しい。回収するのに5年もかかるものはできない(と中国ローカル企業は判断するというわけです)。

勝算ありというわけですね?

今ごろ自動車(部品企業が)来てどうするんだ?とも言われますが、うちの(製品)はこれからです。欧米に認めてもらえてから2年ですが、日本車のアルミのサスペンションより、ドイツのほうが(レベルが)高い。ドイツは40年、50年とアルミのサスペンションやっていますから、技術力も高いですし、汎用性もあります。日本は10年前ぐらいからですから。

ドイツ車はアウトバーンを走れるよう造ります。足回りのレベルは高い。日系メーカーのやりますよ、と言って工場造って、ドイツとかも見に来ます。見に来てもすぐにはつながらない。見積りしてみる?と始まる。量産になるまでに1社につき15回ぐらい来ます。ドイツのような技術+日本の生産管理となるまで、2年かかります。

中小企業ならではの悩みはありますか?

資金がないことですね。設備投資+運転資金ということです。中小の問題点の一つです。ラインだけでも数億円ですから。

お金貸したいということで、銀行さんも何度も来てもらっています。日本では金利は安いですが、(中国の外資企業は)投資総額の大きさによって借りることのできる額は決まります。増資しても、中国は社会構造上、5年後、10年後も安定しているのか?という疑問があります。増資しても、借りれば負債が増えます。自己資本率が下がりますから、経営の安定性としては望ましくありません。

資金の手当ては重要課題ですね

うちは日本でもTier2ですから、打って出るか、我慢しているかの二者択一なんですが。 今、うちは中国でブランド力がついたので、ローカル(取引先)で投資したいという会社もあります。ものづくりをどうするか?インフラが要ります。技術と仕事はある、ブランド力もついてきました。この点はクリアできました。大前提は、いいものをつくるということです。次のステップは、1~2年後どうファイナンスしていくかです。

中国と組んで資本金を倍に増やすか?50%ずつの出資ですね。けれども、中国人の頭のよさからいくと、乗っ取られるわけではなくても、(うちは)実質的な経営はできない。

大手の部品の評価にはリスクマネジメントが含まれています。リスクマネジメントに問題があると、何かあったらおたくなにもできないじゃない、となるわけです。

こちらには日本人は何名いらっしゃるのでしょうか?

53名中、日本人は私一人です。

知財権・技術留保の問題あるいは、模倣・流出対策についてお聞かせください

うちは先取り工法でやっています。その結果、持っていたほうがいいという技術については、ビデオに撮って中国の認証会社で認証してもらいます。それにより、よその会社がやっても、うちが先にやっていると言えます。近々、特許と実用新案で10件以上申請します、技術の防備として。

表面的なことは流れてもいいんです。本当のところは真似できません。けれども、ヘンなところでよそに特許取られたらかないません。

事業の見通しについてはどうでしょうか

サスペンションが鉄からアルミになると、軽くなります。それによって、1.燃費がよくなる、2.技術を中国に供与できる、2.ドイツからの輸入削減にも貢献できる、4.アメリカ、ドイツの外資にも販売できる、となります。中国政府から補助金をもらいたいんですが、中国企業はもらっても、外資はダメなんです。けれども、奨励金はもらいたいです。もしうちが中国ローカルならば、簡単にもらえます。そういうところと競合しなければならないので、コスト力が弱くなります。

うちの技術はオンリーワンに近いんです。中国にも数社あります。それから、日本、ドイツからも企業が来ています。これらが全稼働しても需要に追いつかないんです。ここ3年ぐらいのうちに変わっていきます。

マスコミはいいことは言いません。うちの2号ラインは無人、自動化されています。「高いですよねぇ、人件費も高いですしね」とマスコミは言いますが、うちは関係ありません。人件費が安いから出ているわけじゃないんです。中国工場は全部自動化で、日本の工場より進んでいます。3号ラインはもっと進めます。けれども、設備費が高い。うちは10年で償却です。

中国人社員についてはいかがでしょうか

従業員はほとんど丹陽の人です。両親も丹陽です。うちに勤めた人はほとんど辞めません。そして、クルマを買います。うちは長く勤めていられますよ。従業員のクルマの保有率は高いです。出勤率は98%ぐらい、有給以外に休むこともありません。

仕事は厳しいです。厳しくないところで働いてきた人は、1週間とか10日間とか1か月で辞めます。そういう人が10%ぐらい。1年以上の人はほとんど辞めません。

3年前の3月に初出荷だったんですが、そのとき社員は11人でした。その11人みんな、いまは係長とか班長です。給料も倍になっています。誇りですね。私にとっても、本人にとっても。それで、技術担当者は大丈夫だと思って日本へ帰りました。

社員とのコミュニケーションがうまくいっているということですね

うちは日本より工場はきれいです。日本への研修にこの11人が行きました。「日本の心」を学んでほしかったんです。レストランのおもてなしとか、観光、ショッピングを通して、人を思いやった仕事とはどういうものか、店員さんはどういう対応をしているか…閉店ぎりぎりに行っても対応してくれる。

うちはいつ監査があってもいつもきれいです。監査のために掃除をするのではなく、掃除は自分の仕事が始まる前にして、きちんとかたづけて帰る。8時から始業でも、5分前から始業態勢です。「こんな工場だったら仕事出したいね」と言ってもらいたい。ゴミ拾うのも仕事です。

2017年6月2日 丹陽市日本自動車部品工業団地にて(聞き手: 加藤、柴田)

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